14日の土曜日
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


 連休明けを待ってたかのように、気の早い台風がもたらしたという思わぬ長雨が続いたが。それが明ければ、昼間の陽射しはますますのこと、溌剌と眩しく照っており。お友達のお家へ、休日の午後の談笑にと集まっていた愛らしいお嬢様たちが、そんな風景へ つと眸を留めて、誰からともなく微笑み合う。

 「芝生が何て綺麗なんでしょうか。」
 「ホント、柔らかいラシャを上手に張ったみたいですねぇ。」

 光量が強すぎてのハレーションでも起こしたか、いやいや、そこに敷き詰められた格好の、芝の緑の明るさのせいもあるのだろう。窓の外、それは広々とした庭一面を覆う柔らかな黄緑色の芝生は、それ自体が発光してるんじゃないかと思うほどに、生き生きと明るい。同じくらいに、陽が当たらずともそれは鮮やかに目映いばかりなところは、他にも多々あって。ツツジやサツキ、イヌツゲといった、庭を縁取るように、あるいは木立の足元へと植えられたそれらの茂みには。明るい発色も初々しい新緑が、新たな縁取りのように萌え出しての伸び始めており。花の時期を過ぎた桜やモクレン、梅や桃の梢にも、風へたなびいての小旗のように揺れる若葉が瑞々しい。冬の間は枝ばかりだったアジサイも、それは元気に復活し、大きめのシソの葉のような…と妙な例えをしたひなげしさんだったのへ、

 『そうと勘違いして、
  料理に飾られてたのを食うた騒ぎがあったらしい。』

 とは、一族で大ホテルを経営している紅バラさんのおっかない一言が続き、

 『え?
  だってアジサイの葉って、
  カタツムリや山羊さえ避けるっていう…。』

 お父上に聞いたお話を思い出してか、白百合さんがそうと呟いた。雨と言えばでお仲間のように思われているが、実は毒性の強いアジサイの葉には、かたつむりどころか、虫自体があんまり寄らないそうで。紙まで食べるほどの悪食で知られている山羊さえ、食べたがらないという実験結果もあるそうな。だというのに、和食などで器に飾りとして盛ったところ、シソと間違えて食べたお客さんがお腹を壊した事件があり、そういう趣きある料理を供す店々へ、わざわざの注意勧告がなされたというニュース、もーりんも訊いた覚えが しかとございます。

 「……って、何の話をしてたんでしたっけ?」
 「やだな、シチさん。五月の女王の話ですよ。」

 平八が あははと快活に笑い、

 「今年の女王、あんなに推薦されたのに蹴ったでしょう?」
 「だって…。」

 女学園で催される様々な行事の中でも、イギリスの伝統から催されることとなった五月祭は毎年なかなかの盛況であり。お越しになられた来賓を、それは愛らしいドレス姿でお迎えする初夏の祭りには、その中心人物、豊饒の女神を模した“五月の女王”という役があり。あの女学園へ進学したなら誰もが憧れるほどという、可憐なティアラを髪へと冠せられる、なかなかに神聖なセレモニーがあるのがそのお祭りの目玉なのだが。

 「去年も推挙されたのに、今年も、だなんて。」

 何だか図々しいじゃないですかと、口許を持ち上げたティーカップで隠しながら、ごにょごにょと言い訳する白百合さんへ、

 「久蔵殿に聞きましたよ?
  3年連続同じお姉様がやった例もあったとか。」

 「…、…、…。(頷、頷)」

 その折のお姉様も、それは人気のあったお人で。中等部時代も、そちらは文化祭の“メイプルクィーン”をなさってそしてという、連続就任。しかも、立候補ではなく推挙されての全年制覇だったとか。しかもしかも……

 「もひとつの“しかも”って続きがあって。」
 「…………なんですよぉ。」

 ふふふと意味深な笑い方をした平八へ、ちょみっと口許をとがらせた七郎次だったものの、

 「シチのお母さんだもの。」

 こちらは草野さんチのイオちゃんと違い、ちょっぴり貫禄の出て来たメインクーンのくぅちゃんを。ミニスカートにニーハイはいたお膝の上へ、どすこいと乗せ。ふさふさのお尻尾をつまむと指揮棒のようにふりふりしつつ、そんな一言を付け足した久蔵で…って、え? それって?

 「〜〜〜〜〜。///////」
 「隠してましたね、シチさんたら。」
 「いやあの、特に隠してたワケじゃあ…。」

 でも、秀才校として有名な○○中学で、しかも何年振りなんて言われたほど才女の誉れ高かった身でありながら。だってのに神無中央高校の合格を蹴ってこっちへの入学を選んだのは、お母様と同じ学校へ通いたかったからなんでしょう?と。そこまで知ってたらしいひなげしさんには、どんな言い訳も利かないらしい。

 「…まああの、その通りなんだけど。////////」

 そう。進路を決めましょうかという頃合いに、母のアルバムにあった それは可憐なお姫様のような姿を見て。特に進学校だからと選んだのじゃあなく、学力レベルから弾き出された候補の神無中央高校を。そこをこそ目指す子らが山ほどいるというに、あっさりとすべり止めへと格下げし、こちらの女学園へ進学したいと言い出した七郎次お嬢様。つまりは、そんな一枚の写真との出会いがなかったならば、いやさ、彼女のお母様がそうまでの麗しさで五月の女王様に選ばれていなければ、

 「わたしたち、出会えていなかったかもしれない訳ですよね。」

 お持たせのスィーツ、今日はカップ入りあんみつだったの掻き混ぜていたスプーンを。やはり指揮棒のように振り回した平八が、そんな風に力説するものだから、

 「そんなオーバーな。」

 くぅちゃんのお相手に忙しそうな久蔵へ、はい・あ〜んとピンクのぎゅうひ餅を食べさせてやりつつ、照れてしまった白百合さん。やだなあ、もうもうと あんまり照れてしまったので。それじゃあ話題を変えましょうかねと、苦笑半分になったひなげしさんが、ふと手にしたのは、昨日の日付の新聞だ。くぅちゃんの猫トイレにでも敷くつもりだったか、猫じゃらしを立ててあった筒型のマガジンラックへ無造作に突っ込んであったらしいのだが、

 「あ、これこれ。ビックリしませんでしたか?」

 割と大きな紙面を割かれていたのが、都内T市にて、日本の犯罪史上 最高値(おい)の現金が強奪された大事件。更夜の未明に、郵便局や商店の売り上げ金を一時預かりしていた警備会社へ2人の男が侵入し、一人夜勤として詰めていた男性警備員を鉄パイプで強襲し、ナイフで刺すなどして、金庫の暗証番号を聞き出した末に、専用の集金袋に小分けされていた現金、6億400万を20分ほどで強奪。乗って来た車で速やかに夜更けの町へと消えたのだそうな。

 「昨日のニュースワイドで特集されてましたが、
  お札の大きさが随分と小さくなったものだから、
  あの府中で起きた3億円事件の折の、
  大荷物ほどにもならない大きさだったらしいですよ?」

 「あ、それはアタシも観ました。」
 「…、…、…。(頷、頷)」

 そこいらの女の子が引いてるキャリーの、2個分もあったかどうかって大きさだったんでびっくりしましたと、七郎次が勢い込めば。あのくらいの荷物なら、ホテルのメンテ用ダストワゴンを使えば、女一人の身でも余裕で移動させられるぞ…と。見た目が可愛くとも ずんと頼もしい力持ちな女性陣を、間近に山ほど知っている久蔵が厳そかに言い足して。

 「どっちかといや、警備会社側が迂闊ですよね。」
 「そうよね、被害者を悪く言っちゃいけないんだろうけど。」
 「結構長いこと、鍵が壊れたままになってたとか。」
 「それと、そこまでの大金を預かっときながら夜勤はたった一人だったとか。」
 「そのたった一人の夜勤担当者が、金庫の暗証番号を知ってたとか。 」

  時々番号を変えてたって、こんな風に押し入られちゃあ意味ないし、
  本来、知らないものは教えようがないってのを徹底させなきゃ。

  そうそう。

  あれでしょう? 事務所にはコード表だけ置いとくってパターン。

  何かあったら責任者へと連絡させて、
  今日のはB-09とかいう、
  ランダムコードをそこで初めて教えて、
  それから表を調べてって風に、
  段階踏ませなきゃ意味ないっていうの。

  何ですか、
  以前にも高額浚われた強盗事件が2度ほどあった事務所だって話で。

  保険とか入ってたのかなぁ、その事務所。

  というか、警備会社が自社に預かっていいのかなぁ?

  ですよね、銀行じゃないんだから。
  え? 運搬の途中で一時預かるってカッコになってるだけだから?
  運用しないなら問題ないって?
  そか、久蔵殿、そんなことも御存知だったか。

   …………などなどと。

 お大尽のお嬢様や、世界的に有名な学者せんせえの孫娘という、いかにもおっとりしていそうな、浮世離れした人種を思わせよう、仰々しい肩書きをしていながら。そんな…専門職はだしな見解を、すらすらと淀みなく並べてしまわれるお嬢さんたちなのが末恐ろしい。

 「平八だけなら、
  ままそういった先進のシステムに詳しいのかもと思えなくもないが。」

 「それを言うなら、
  久蔵殿の実家は大きな商いをしていなさるコンツェルンだから。
  こういうことへのノウハウには詳しくとも、不思議はないのでは。」

 「何だなんだ、あのぼんやりした娘がそういうことへ詳しいはずがなかろうよ。
  それより、警部補殿との会話などから、
  あの華族のご令嬢が正義感を育まれているのは明らかで。」

 お珍しくも、今日は大人の皆様も同席していた集まりだったようであり。だがだが、年齢格差から話題が掛け離れてしまいそうだということで、それぞれで談笑していたややこしい雰囲気だったところへのそんな物騒な話の流れ。何しろ、日頃のしょっちゅう、こちらにおわす警視庁勤務の壮年殿が収拾班としてやって来るよな事態へ不思議と縁がありまくる彼女らでもあるものだから。

 「よもや、またぞろそんな大騒動へ一丁咬みする気じゃなかろうな。」

 当家の一人娘へと、栄養バランスと貧血予防に調合しておいでの常備薬を届けに来ていた兵庫せんせえが。そんな物騒なことを、だがだが、この子らには大きにあり得ることと懸念して口にすれば。

 「あ、人聞きの悪い。」
 「〜〜〜っ。(そうだ、そうだ)」
 「アタシらのは、単に降りかかる火の粉を払ってるだけですのにね。」

 いろいろな騒動へ片っ端から首を突っ込んでるように言わないで下さいませと。金髪のマドンナさんに紅眸のクール・ビューティ、赤毛のキュートなハニーからまで、キィ〜と睨まれてしまい。言い過ぎましたと頭を下げた医師殿へ、残り二人の保護者が“まあまあまあ”と宥める、世にも珍しい構図が見られた、とある初夏の午後だった。





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